本当にあった怖い「賃上げ政策」の話

先日、内閣府全職員を対象に「賃上げを幅広く実現するための政策アイデアコンテスト」開催され、「残業から副業へ。すべての会社員を個人事業主にする。」と題するアイデアが優勝しました。

「残業から副業へ。すべての会社員を個人事業主にする。」の概要

労働者には終業時刻以降の残業を禁止し、終業時刻以降は個人事業主として残業相当分の業務を受託する。

これにより、企業は社会保険料や残業代支払いのコストを削減でき、他方で、労働者は終業時刻以降の業務について社会保険料及び所得税の控除を免れることとなることから手取りの増加に繋がり、もって新たな財源等を必要とせず、企業のキャッシュフローも改善可能であること等を提案するものである。

 

え。怖い怖い。これは本当にナイスアイデア何でしょうか。
どこのブラック企業かと思いきや内閣府って…。しかも優勝って…。

 

そうですよね。
このアイデアは本当に労働者のためになるのか疑問ですね。

 

全国社会保険労務士会連合会による声明

内閣府「賃上げを幅広く実現するための政策アイデアコンテスト」における「残業から副業へ。すべての会社員を個人事業主にする。」と題するアイデアに関する声明.pdf

我々、社会保険労務士は労務管理及び労働社会保険の専門家として「人を大切にする企業づくり」をコーポレートメッセージに掲げており、中小企業の労務管理の実態に即した適切な相談指導を行ってきた観点から、当該アイデアについては、労働時間及び社会保険料の捉え方に問題があると考える。

そもそも労働契約に基づき、労働者が使用者の指揮命令下で労働した結果、勤務時間内に業務が完了せず、時間外労働が発生しているものについて、時間で「労働契約に基づく労働者としての労働」と「業務委託契約に基づく個人事業主としての業務」とに切り分けることは、労働基準法に定める割増賃金の支払い義務を免れるための行為とみられ、法の趣旨に反するものと考えられる。

また、健康保険、厚生年金保険等の社会保険制度は労働者と家族(被扶養者、遺族)の生活を守るセーフティーネットであり、報酬に応じた保険料を納付することによって労働者とその家族の生活の安定と福祉の向上を図ることを目的としているところ、事業主が社会保険料を「コスト」と捉えその負担を免れるため、あるいは労働者がいわゆる手取りの給与額を増やそうとするがため、業務委託契約により、その適用から除外することは、制度の趣旨に反する行為であると考える。

以上を踏まえ、当会としては当該アイデアについては、以上に指摘した重大な問題が存するものと考えるところであり、国民の誤認を招くことのないよう、相当の配慮がなされるべきと考える。

労働者はあくまでも「労働者」

労働者とは、
使用者に指揮命令を受けて労働し、賃金を支払われる者。各労働法の保護を受けることが出来る。

個人事業主(業務委託)とは、
注文者から受けた仕事の完成に対して報酬が支払われ、注文者の指揮命令を受けず「事業主」として扱われる。各労働法の保護を受けることは出来ない。

 

そして、これらの判断は、個々の働き方の実態から判断されることになります。

厚労省は「従業員に終業時刻後の業務を個人事業主の形式で行わせること」に関する相談対応について、以下のとおり回答するよう各労働局へ通達を出しています。

「仮に個人事業主として業務を行っていたとしても、実態として労基法上の労働者に該当するのであれば(終業時刻までとそれ以降で使用従属関係に変化が生じてなければ、形式上個人事業主としての業務委託契約が締結されていたとしても)、労働基準関係法令が適用される」

終業時刻前と同様の働き方をしているのではあれば、それはもう「労働者」である、ということですね。

 

 

労働契約と業務委託契約は全くの別物であり、まずはしっかりとその違いについて理解をしていなければ実際の運用は難しいですね。

 

他にはどんなアイデアがあったのか調べてみようと、内閣府のサイトを探してみましたが、既に掲載は終了されていました…。

きゃーーー!

 

詳細はこちら

内閣府 「賃上げを幅広く実現するための政策アイデアコンテスト」を開催しました

厚生労働省提出資料 労働者性の判断基準(労働基準法)