東京メトロ・未払い残業代86億円をどう読むか?

東京メトロが、労基署から是正勧告を受けたことが分かりました。
支払額は最大約86億円の見通しで、今年度中に支払うとしています。

是正勧告の概要

日比谷線で鉄道設備の保守管理を行う従業員の休憩・睡眠時間において、突発的な不具合が発生し社員が緊急の対応を行った場合は、代わりの休憩時間もしくは早出・残業手当等の支払いをすることとしていましたが、労働実態について労基署が調査をしたところ、当該休憩時間・睡眠時間について「労働から離れることが保障されている時間とは認められない」とされ、これを労働時間と取扱い、労働基準法で定めるところにより割増賃金の支払いを講じるよう指導及び是正勧告がなされました。

なお、労基署は社員からの申告により今年1月頃から調査をしていました。

東京メトロは、日比谷線だけでなく他路線についても自主的に是正勧告の趣旨に則った形に見直し、適切な休憩・睡眠時間が確保できるよう社員の働き方の改善に努める、としています。

詳細はこちらから
足立労働基準監督署からの是正勧告について

適切な「休憩時間」とは?

今回、会社としては「休憩時間」と言いつつ、突発的な不具合の緊急対応が多かったので「業務から完全に解放されていない」と判断された形ですね。では労働基準法の求める「休憩時間」とは一体何なのでしょうか。

休憩時間については、労働基準法第34条に次のように規定されています。

第1項 休憩時間の長さ

<原則>:労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間を労働時間の「途中」に与えなければならない

<例外>:なし

第2項 一斉休憩の原則

<原則>:休憩は「一斉」に与えなければならない

<例外>:運輸交通業、商業、金融広告業、映画演劇業、通信業、保健衛生業、接客娯楽業、官公署などの一定の業種については、一斉に与える必要はありません。

また当該事業場の実態からみて、休憩を一斉に与えることが困難な場合(交替勤務がある場合など)には、労使協定を結ぶことにより交替で与えることができます。

第3項 自由利用の原則

<原則>:休憩時間は「自由に利用」させなければならない

なお、事業場の規律保持のために必要な制限を加えること(休憩時間中の外出を許可制としたり、外出する際には制服から私服に着替えるよう指示することなど)は、休憩の目的を損なわない限り差し支えないとされています。(旧労働省行政解釈昭22年9月13日基発第17号)

<例外>:次の者については、自由に利用させてなくても差し支えないとされています。

・警察官、消防吏員、常勤の消防団員、准救急隊員および児童自立支援施設に勤務する職員で児童と起居をともにする者

・乳児院、児童養護施設および障害児入所施設に勤務する職員で児童と起居をともにする者であって、使用者があらかじめ所轄労働基準監督署長の許可を受けたもの

・児童福祉法に規定する居宅訪問型保育事業に使用される労働者のうち、家庭的保育者として保育を行う者(同一の居宅に置いて、一の児童に対して複数の家庭的保育者が同時に保育を行う場合を除く。)

今回の事案からも、休憩時間は労働者が業務から完全に解放され、権利として労働から離れることが保障されている時間でなければならない、ということが分かります。

いわゆる「何かあったらすぐに対応できるように待機している時間(=待機時間)」は労働時間とみなされ、(実際に何も対応しなかったとしても)休憩時間にはカウントできない、ということです。

実際に対応を行った場合は、代わりの休憩時間もしくは早出・残業手当等の支払いをすればいいワケではないので注意が必要です。

 

今回は、86億円という多額の支払額となりましたね。

金額だけでなく、東京メトロという誰もが知っている会社であることから、社会的信用の損失も大きいのではないかと思います。

また、鉄道会社では「一昼夜交代勤務」と呼ばれる泊まり勤務を採用しているケースが多いので、今回の是正勧告は同業他社にも影響がありそうです。

みなさんの職場では正しく休憩が取れていますか?