着替え時間、給与払ってますか?

看護師ら16人が、始業開始前の着替え時間や、薬の準備をする時間について、時間外手当などが支払われていないのは不当だとして、病院に対して過去3年分、約4,600万円の支払いを求めて提訴をしたというニュースがありました。

詳細はこちら →着替え時間の賃金求め提訴

 

労働時間とは

経営者なら当然に知っていなければいけないこの「労働時間」は、「使用者(=会社)の指揮命令下にあるか否か」で判断されます。

労働時間=使用者の指揮命令下にあるか否か

 

「指揮命令下にある」とは

「指揮命令下」とは、会社が業務命令をしているかを表す基準です。

始業開始前の着替え時間が、必ずしも「労働時間」になるわけではなく、会社から「制服に着替えなさい」という業務命令があった場合には「労働時間」としてみなされる、ということです。

具体的には、次のような業務命令がある場合は「労働時間」とされます。

・就業規則で制服着用を義務付けられている
・安全面や衛生面から着替えを必要としている
・会社が着替え場所を指定している
・通勤時に制服の着用を禁止している

 

違反していた場合

過去に遡って「労働時間」と認定された場合、賃金未払いとなり、遡って支払いが必要になります。

例)時給1,200円のスタッフ30名について、始業開始前に制服の着用、朝礼、業務準備の為に30分早く出社することが慣習となっている場合

おおよそ1日あたり/1,200円×30人×30分=18,000円、1か月あたり/36万円、1年あたり/432万円になります。

 

未払賃金の時効

2020年4月1日以降の分から5年(旧法では2年)。ただし、当分の間は3年とされています。よって、上記の例でいえば432万×3年=約1,300万ですので、慣習としてずっと労働時間と扱っていなかった場合は、それだけのリスクがある、ということです。

未払賃金請求権の延長について

 

相談事例

着替え時間についてだけでなく、労働時間かどうか、そのほか対応方法についての相談もよくありますので、少し紹介します。

始業開始前に開店準備してもらってるけど、給与はお店が開店してからの時間しか払っていません。今までそうしてきたし、特に今のところ労働者から不満の声もあがっていないし、何かあったらその時に対応する、でいいですか。

実作業前後の準備行為時間は、これを余儀なくされている場合は、特段の事情が無い限り、労働時間となります。未払賃金の時効もそのうち5年になりますし、現状は法違反の状態になっていますので、速やかに是正しましょう。

 

着替え中はスマホをいじったり私語もしているし、完全に「労働時間」とは言い切れない気がするんですよね。このままでも平気ですか。

会社が適正に時間の管理をしていなければ、その全てが労働時間とみなされてしまうリスクがあります。業務時間である旨の明文化したルールを周知し、徹底させましょう。

 

 

具体的には、就業規則にはどのように記載しておけばいいでしょうか。

業務上の必要性がある時間を含めて、正しい始業開始時間を設定します。そのうえで「単に円滑な業務の開始を促す」という意味であれば「従業員は、始業時刻に業務を開始できるよう余裕をもって出勤しなければならない」といった内容を定めておくと良いでしょう。

 

東京から福岡へ一泊二日の出張をさせることになりました。
一日目(金曜日)に福岡のクライアントと打ち合わせを行って、二日目(土曜日で休日)は東京への移動のみで仕事はさせません。
この場合、二日目の移動時間について給与を支払う必要はありますか?

二日目については移動のみで、移動中はゲームや仮眠を取るなど自由に過ごすことができます。この場合、移動中は会社の指揮命令下に置かれていませんので、労働時間にはあたらず給与を支払う必要はありません。

 

 

実際の現場では、「これは労働時間なのか?」と迷うこともあると思います。

そう、「労働時間」ってけっこう奥が深いんです。

過去の裁判例や厚生労働省からのガイドラインも出ていますが、もし判断に悩まれたら弊社まで、お気軽にご相談ください。

 

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い