カスハラ防止条例
お客様は「神様」ではありません!
令和6年10月6日、東京都で全国初となるカスタマーハラスメント、いわゆるカスハラを防止する条例が成立しました。来年4月1日から施行されます。
この条例では、「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない。」と規定しています。
カスハラ防止条例は、全国初の条例であり、他の都道府県にも今後広がっていくことを期待したいですね。
そうですね。企業にとってもカスハラ対策を講じることは「従業員が働きやすい職場環境」につながります。企業の対応として、条例ではどのように定められているのか見ていきましょう。
条例に定められた企業の対応
カスハラ防止条例では、都内の事業者(個人事業、国の行政機関を含む)に対しても、指針に基づき、以下の対応を努力義務としています。
・相談を受けた者があらかじめ定めたマニュアルに基づき対応する等
・社員がカスハラ行為を疑われ事実確認を求められた場合は協力する等
あらかじめ適切なマニュアルを作成することが大事なポイントですね。
厚生労働省は「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を作成しています。カスハラ防止条例はおおむね、このマニュアルの内容を踏襲していると考えられますので、参考にするとよいでしょう。
そうそう、この条例には罰則規定が無いそうですね。
結局は、ゆるいルール、って事ですか??
罰則規定は無い
カスハラ防止条例には、罰則規定が設けられていません。はたして罰則規定が無くても実効性は確保できるのでしょうか。
有識者を交えた検討部会では、罰則を設けた方がいいという声もありましたが、カスハラ行為者には「刑法」および「民法」、事業者に対しては「安全配慮義務」でカバーすることが可能であり、罰則よりも被害者の救済措置、相談や紛争解決の援助なども有効な手段とし、ガイドラインを作成して、対応することとしています。
■刑法および民法
カスハラ行為自体は次のような犯罪に該当する可能性があります。
また精神的損害を被った場合、不法行為に基づく損害賠償請求も可能です。
(引用:カスタマーハラスメント防止対策に関する検討部会 第2回資料)
■労働契約法
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」
労働契約法において、使用者は当然に安全配慮義務を負うこととされており、顧客からの迷惑行為に対し事業主が適切な対応を行わなかった場合には、安全配慮義務違反となり、従業員から損害賠償請求をされる可能性があります。
実際に裁判となった事例を紹介しましょう。
裁判例 ①カスタマーハラスメントに対して不適切な対応をとったことで、賠償責任が認められた事例
(甲府地判平成30年11月13日より要約)
市立小学校の教諭が児童の保護者から理不尽な言動を受けたことに対し、校長が教諭の言動を一方的に非難し、また、事実関係を冷静に判断して的確に対応することなく、その勢いに押され、専らその場を穏便に収めるために安易に当該教諭に対して保護者に謝罪するよう求めたことについて、不法行為と判断し、小学校を設置する甲府市及び教員の給与を支払う山梨県は損害賠償責任を負うと判断されました。
裁判例 ②カスタマーハラスメント対策を十分に講じていたことで安全配慮義務の責任を免れた事例
(東京地判平成30年9月3日より要約)
買い物客とトラブルになった小売店の従業員が、会社に対し、労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮を欠いたとして、損害賠償請求を求めました。それに対し、被告会社は、誤解に基づく申出や苦情を述べる顧客への対応について、入社テキストを配布して苦情を申し出る顧客への初期対応を指導し、サポートデスクや近隣店舗のマネージャー等に連絡できるようにして、深夜においても店舗を2名体制にしていたことで、店員が接客においてトラブルが生じた場合の相談体制が十分整えられていたとし、被告会社の安全配慮義務違反は否定されました。
(引用:厚生労働省 カスタマーハラスメント対策企業マニュアルより)
カスハラ対策の必要性
気づいたでしょうか?
そう、企業は、「被害者側」にも「加害者側」にも、なり得るのです。
「現場に任せておけばいい」「何かあったらそのときに対応すればいい」では被害者を出したうえに、加害者側にもなってしまうことを忘れてはいけません。
被害者側にも加害者側にもならないために、あらかじめ適切なカスハラ対策を講じておくことが企業自身を守ることにつながるのです。
カスハラが無いのが一番ですが、企業がしっかりとカスハラ対策を講じてくれていると、働く側も安心して働くことが出来ますね。
詳しくは以下もご欄ください。