外国人材雇用における労務管理・安全衛生のポイント|令和6年の監督指導結果から学ぶ法令遵守
~令和6年 労働基準監督署の監督指導結果から学ぶ法令遵守の対策~
2027年4月からは、現行の技能実習制度を発展的に解消し、新たに「育成就労制度」がスタートします。
育成就労制度では、監理支援機関に対する外部監査など、監理・支援体制の強化が図られます。
そこで今回は、厚生労働省が公表した「令和6年 外国人技能実習生又は特定技能外国人を使用する事業場に対して行った監督指導、送検等の状況」を基に、外国人材を雇用する企業が特に注意したい労務管理・安全衛生上のポイントを解説します。
令和6年の監督指導では7割を超える事業場で法令違反が判明
令和6年に全国の労働基準監督署等が、労働基準関係法令違反が疑われる事業場に対して監督指導を実施したところ、
技能実習生を使用する事業場では、11,355事業場のうち8,310事業場(73.2%)で法令違反が認められました。
特定技能外国人を使用する事業場では、5,750事業場のうち4,395事業場(76.4%)で法令違反が認められました。
ただし、これらは外国人を雇用するすべての企業の違反率ではなく、労働基準関係法令違反が疑われるとして監督指導が実施された事業場における違反率です。
技能実習生・特定技能外国人のいずれについても、特に多かった違反事項は、次の3項目でした。
- 使用する機械等の安全基準
(労働安全衛生法第20~25条) - 割増賃金の支払
(労働基準法第37条) - 健康診断結果についての医師等からの意見聴取
(労働安全衛生法第66条の4)
このほか、労働時間、年次有給休暇、賃金の支払、労働条件の明示などについても違反が認められています。
実際の監督指導事例と改善対応

厚生労働省が公表した監督指導事例から、外国人材を雇用する企業が特に注意したい事例をご紹介します。
機械の安全基準・安全衛生教育
違反内容(食料品製造業):
工場内で技能実習生が食肉加工用の機械に手を挟まれ、負傷する労働災害が発生しました。
技能実習生が機械の運転を停止しないまま、機械に詰まった肉を取り除こうとした際に、コンベヤの間に手が挟まれたものです。
労働基準監督署は立入調査を行い、機械の作業手順について是正を求めるとともに、外国人労働者に分かりやすい方法による安全衛生教育や安全対策を行うよう指導しました。
会社の対応:
・機械の運転を停止して作業することなど、機械作業の手順について通訳を介して技能実習生全員に教育
・母国語による作業手順書を作成
・各機械に切創防止手袋の着用イラストや母国語のステッカーを貼付し、視覚的に注意喚起
外国人材への安全衛生教育では、単に日本語で説明するだけでなく、本人が内容を理解できる方法で伝えることが重要です。
最低賃金・割増賃金・年次有給休暇
違反内容(建設業):
技能実習生5名の賃金が最低賃金額未満となっており、さらに1週間につき40時間を超える時間外労働に対する割増賃金が支払われていなかったため、是正勧告が行われました。
また、10日以上の年次有給休暇が付与された技能実習生について、1年以内に5日分の時季指定が行われていなかったことについても、是正勧告が行われました。
会社の対応:
・最低賃金額以上となるよう労働契約を見直し
・過去の最低賃金および割増賃金の不足額、合計約8万円を支給
・年次有給休暇の新規付与時に、技能実習生と面談して取得予定日を取り決め
・その後も定期的に取得状況を確認し、確実な取得に向けて対応
外国人材についても、年次有給休暇の取得に関するルールは日本人労働者と同様に適用されます。

年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者については、基準日から1年以内に5日を取得させる必要があります。会社として、取得状況を適切に管理することが重要です。
賃金控除・割増賃金・健康診断
違反内容(建設業):
特定技能外国人の賃金から、労使協定がないまま家賃や光熱費、工具代を控除していたため、是正勧告が行われました。
また、特定技能外国人に毎月支給していた特別手当を、割増賃金の算定基礎に含めていなかったことについても是正勧告が行われました。
さらに、健康診断結果について医師からの意見聴取を行っていなかったことについても、是正勧告が行われました。
会社の対応:
・家賃や光熱費について、賃金控除に関する労使協定を締結
・工具代は会社負担に変更
・割増賃金の不足額約12万円を支給
・健康診断結果について医師からの意見聴取を実施
外国人材の給与から社宅費や光熱費などを控除する場合には、賃金控除の手続きが適切に行われているか確認する必要があります。
休憩時間・早退時の賃金控除
違反内容(ホテル業):
技能実習生から、休憩時間中にも働いているにもかかわらず、その分の賃金が支払われていないこと、また早退した時間よりも多くの賃金が控除されているとの申告がありました。
労働基準監督署の立入調査の結果、休憩時間中に労働させたにもかかわらず、その分の賃金の一部が支払われていなかったこと、また早退時間にかかわらず一律半日の欠勤として賃金を控除していたことが判明し、是正勧告が行われました。
会社の対応:
・休憩時間中に労働した分の賃金を支給
・早退時に過剰に控除していた賃金を支給
・合計約2万円を対象者に支給
「休憩時間」として設定していても、実際に労働させていれば労働時間となります。外国人材に限らず、実際の勤務状況と勤怠記録・給与計算が一致しているかを確認することが重要です。
中途退職時の違約金・ビザ取得費用の返還
違反内容(特定技能・社会福祉施設):
特定技能外国人が労働契約期間中の中途退職を申し出たところ、会社からビザ取得費用を賃金から控除されたとして申告があり、労働基準監督署が立入調査を実施しました。
日本語の労働契約書には、契約期間の途中で退職した場合に就労ビザ取得費用を会社へ返還する旨が記載されていました。
労働契約の不履行について違約金を定めることにつながるとして、是正勧告が行われました。
会社の対応:
・日本語表記のみの雇用契約書を取りやめ、入国審査時に提出する母国語併記の雇用契約書によって労働条件を明示
・労働契約の不履行時に違約金を支払わせる定めを削除
・ビザ取得費用等として賃金から控除していた合計約23万円を本人に支給
外国人材の採用にあたって会社が負担した費用について、「一定期間勤務せずに退職した場合には費用を返還する」といった契約を安易に設けることは注意が必要です。
労働契約の不履行について違約金や損害賠償額をあらかじめ定めることは、労働基準法第16条により禁止されています。
賃金からの不適切な控除
外国人材を雇用する場合、社宅費、光熱費、食費、工具代などを本人負担として給与から控除するケースがあります。
しかし、賃金は原則としてその全額を支払う必要があり、法令に定めがある場合を除き、賃金の一部を控除するためには、労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者との書面による労使協定が必要です。
特に外国人材については、雇用契約書や給与明細の内容を本人が十分に理解できているかという点にも配慮する必要があります。
外国人材の労務管理で今すぐ確認したいチェックリスト

意図せぬミスや制度の誤認による法令違反を防ぐため、以下の項目について自社の運用体制を改めて確認してみましょう。
最低賃金の確認
「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の両方が適用される場合、いずれか高い方を上回る賃金設定となっているか?
(最低賃金法第4条)
割増賃金の計算
時間外・休日・深夜労働について、割増賃金が正しく計算・支払われているか?
また、各種手当について、割増賃金の算定基礎から除外できるものかどうかを正しく確認しているか?
(労働基準法第37条)
賃金からの控除手続き
社宅費(家賃・光熱費)、食費等を給与から控除する場合、過半数代表者等との「賃金控除に関する労使協定(24協定)」を締結・周知しているか?
(労働基準法第24条、第106条)
年次有給休暇の取得管理
年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者について、基準日から1年以内に5日を取得させているか?
また、本人の希望を確認しながら、取得状況を適切に管理しているか?
(労働基準法第39条)
健康診断後の医師等からの意見聴取
健康診断の結果、異常の所見があると診断された労働者について、医師または歯科医師から意見を聴取し、その内容を健康診断個人票に記載しているか?
(労働安全衛生法第66条の4)
言語コミュニケーション・安全教育
外国人材が安全衛生に関する内容を十分に理解できるよう、母国語、やさしい日本語、ふりがな、ピクトグラム(図解)などを活用した作業手順書や注意標識を整備しているか?
雇用契約・違約金の確認
中途退職した場合に、ビザ取得費用や採用費用などを本人に返還させる旨の規定を設けていないか?
雇用契約書について、外国人本人が労働条件を十分に理解できるよう、必要に応じて母国語等を活用しているか?
実際の労働時間と給与計算の確認
休憩時間中に労働させていないか、また早退・遅刻等について実際の労働時間を超えて賃金を控除していないか?
勤怠記録と賃金台帳・給与計算の内容が一致しているか?
2027年4月の育成就労制度に向けて、今から労務管理体制の確認を
2027年4月から始まる育成就労制度では、外国人材の育成と人材確保を目的として、制度の適正な運用を確保するための仕組みが設けられます。
外国人材を受け入れる企業にとっては、在留資格や育成就労計画などの手続きだけでなく、最低賃金、割増賃金、労働時間、年次有給休暇、安全衛生、健康診断など、日常の労務管理を適正に行うことが重要です。
特に、外国人材だから特別な労務管理が必要なのではなく、基本的には日本人労働者と同様に労働関係法令が適用されます。そのうえで、言語や文化の違いを踏まえ、本人が労働条件や安全衛生上のルールを理解できるよう配慮することが求められます。
外国人材の労務管理・安全衛生についてお気軽にご相談ください

外国人材の雇用においては、言語の壁に配慮した安全衛生管理や、複雑な労働関係法令に沿った賃金・労働時間管理が欠かせません。
「自社の給与規程や賃金控除協定に問題がないか確認したい」
「外国人材の雇用契約書や労務管理に問題がないか確認したい」
「育成就労制度の開始に向けて、社内の労務管理体制を整えたい」
など、外国人材の雇用や労務管理に関するご質問・ご相談がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
【参考資料)
外国人技能実習生又は特定技能外国人を使用する事業場に対して行った 令和6年の監督指導、送検等の状況を公表します|厚生労働省
【最新情報】
厚生労働省は2026年9月15日に、令和7年に外国人技能実習生・特定技能外国人を使用する事業場に対して行った監督指導等の状況を公表しました。最新の監督指導結果については、厚生労働省の公表資料もあわせてご確認ください。
外国人技能実習生又は特定技能外国人を使用する事業場に対して行った 令和7年の監督指導、送検等の状況を公表します|厚生労働省
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